東京高等裁判所 昭和35年(く)103号 決定 1960年10月17日
少年 N(昭二一・七・二四生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
申立人抗告理由は抗告申立書記載のとおりであつてその要旨は
申立人は少年Nの母であつて、少年は昭和三五年九月一九日東京家廷裁判所において、物価統制令違反保護事件について初等少年院に送致する旨の決定を受けたものである。しかしながら、少年本人の申すには、自分が間違つていた、今後はまじめになるから少年院に行くのはいやだというのである。同人は以前は少年院にでも行つて卒業して来る、行つて来る方がはくがついてよいようなことを申していたが、鑑別所に行つていた間にこんな生活はいけない人間らしくなりたいとの考えが出たように思う。事件もダフ札を売つたのに過ぎず人を傷けたようなものではなく、何もしていない子を少年院に入れると本人の反抗心をあおるのみと思う。また学校や社会がこんな人間にしてしまつたと思う。引受人も居るし、働かせることはいけないかも知れないが、引受人が不動産売買をしている知人なのでその仕事を覚えさせたいと思う。本人も反省の気持が充分あり、自分も何も悪いことをしない子を少年院に入れるのは哀れと思う。このようにならぬ以前に悪の芽をつみ取りたいと思いお願いしたが、係の人がそんな処に入れても決して良くなるものではないと相手にしてくれなかつた。そんな決して良くなるものではない処に罪を犯していない少年を入れても反抗心をもつて一年なり二年なり少年院で暮す哀れな気持と、出て来て反抗心でなにをするか判らないので、今回は、引受人に引取つて貰い、自分も時に行つて世話しながらまじめになるように努力してみる。それ故原決定を取り消して保護観察処分に付せられたく抗告に及んだ次第である、というのである。
よつて審究するに、本案事件記録及び少年調査記録を精査してみると、原判示少年の所為(罪となるべき事実)は、物価統制令違反の罪に過ぎないのであるが、原決定が説示するごとく少年の非行性は根強いものがあつて、やくざ集団との結束意識が顕著であるばかりでなく、法定代理人たる母の保護能力のみるべきものはないし、申立人のいう引受人の保護監督をもつてしては少年の保護育成の実を挙げるには著しい困難が予想されるが故に、少年を相当長期間にわたつて施設に収容の上、まず現在の不良環境から隔離して矯正教育を授けることこそその保護育成の目的を達するに適切な措置であると認められる。かくして少年を初等少年院に送致する旨の原決定に法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当のみるべきものはなく、申立人の抗告は理由ないものとして排斤するの外はない。
よつて少年法第三三条第一項に則つて本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道 判事 堀義次)